1月24日:久しぶりの夜の道

今日は久しぶりに美容院に行った。まだ外が明るいうちにスタートしたけれど、カット・カラー・パーマ・トリートメントのフルセットをお願いしたので、すべてが終わってお店を出るころにはとっぷりと日が暮れていた。

夜の中に沈んだ街を見て気づく。暗い道をひとりで歩くのはずいぶん久しぶりだなぁ、と。いまの生活は「暗くなる前にお家に帰りましょう」が自然と組み込まれているので、闇に飲まれた建物や道が驚くほど真っ黒に見えた。

とたんに怖くなる。そうか、夜はこんなに暗かったのか。よく歩いている道なのに、心が臆病になったせいかどう進んでいいのかわからなくなる。何度も振り返り、何度も道を確認して、間違えて曲がったり戻ったりしながら、いつもとは違うルートをおそるおそる進んだ。

わたしは道を覚えるのが下手だ。だいたいの方向すらパッとはわからない。ぼんやりとした頼りない街灯に(もう少しがんばってよ)と理不尽に腹を立てながら、怖さを振り払うようにあえてずんずんと足速に歩く。

夜の中を久しぶりに歩いているうちに、道がわからない理由に気づく。そうか、わたしはいつも色で道を判断していたのだ。「緑の柵がおしゃれなおうち」「青い壁がきれいなおうち」「ブラウンのレンガがかわいいおうち」「色とりどりの花がすてきに咲くおうち」。街にあふれるカラフルな色がわたしの道しるべ。

それなのに、夜は色を奪ってしまう。あれだけ色鮮やかだったはずの街はどこかに消えて、味方だったはずの建物たちはツンとした表情でわたしを拒んでいた。なによ、なによ、いつもと全然違う顔をして。街灯への怒りを罪のない建物にまで飛び火させながら、わたしは進む。ずんずん、ずんずん。怖さや不安に追いつかれないようにひたすら進む。ずんずん、ずんずん、ずんずん。

そうしているうちに、ふと変化に気づく。あれだけ溢れそうになっていた恐怖は少しずつ和らぎ、過去の自分を思い出す。夜の闇なんてまったく怖がらず、音楽を聴きながらふんふんと気分よく歩いていた昔のわたし。あら、そういえばそんなときもあった。そうそう、そんなわたしも確かにいた。

街灯をちらりと見れば、あれだけ頼りなく感じていた光はしっかりと地面を照らしている。白黒になってしまったと感じていた建物たちも、よく見ればなんとなくホワイト、なんとなくブラウン、なんとなくグレー。明るいところで見たら「いやいや、この壁はホワイトではなくベージュです」なんて壁に怒られるかもしれないけれど、そんなことは些細な色の違いだと、夜の闇に包まれながら思えるようになっていた。

ずんずん、と歩いていた意識は、いつのまにかいつもの調子に戻っていた。すたすた、とことこ、とてとて。怖さや不安や怒りが内包されていないただの足音。ただ歩く。そうか、これが慣れか。歩きながら納得する。それと同時に、「怖い」は「緊張している」とも言い換えられるなぁ、としみじみ実感した。

あれだけのっぺりと見えた道は、気づけばただのいつもの道。そりゃあそうだ。明るいうちは真っ直ぐだった道が、夜になったとたんにグニャグニャと折れ曲がるはずはない。いつもの道だ、お昼と同じ。ふと前を見れば、よく通る大通りが見えた。家はもうすぐそこだ。大通りを抜けるとまた薄ぼんやりした住宅街に入るけれど、もうきっと怖くないだろうなと、チカチカとまぶしい大通りの灯りを見ながら思った。