5月17日:わたしたちと部屋の話

来月、引っ越しが決まった。3年半暮らした2DKのマンションとも、あと少しでお別れだ。3年半。長かったような、短かったような。

わかっているのは、引っ越しはわたしの中でとても楽しみな予定だということ。そして、その楽しみな気持ちと同じくらいの分量で、この部屋から離れるのがとても寂しいということ。

いま夫である人が、まだ恋人だったときに、わたしたちはこの部屋で同棲を始めた。食べる部屋と眠る部屋。それぞれわけられる間取り。ひとりが眠っていても、もうひとりは気にせずテレビを見られる間取り。

暮らしやすい2DKは、空間を区切る扉を開ければ1LDKにもなった。わたしたちの生活に合わせて部屋は変化して、気持ちよくわたしたちをサポートしてくれた。

あぁ、本当に一度でいいから、部屋と話すことができたなら。わたしたちはどんな住人だったでしょうか。去ることを寂しいと思ってもらえるほど、いい住人だったでしょうか。それとも、はやく出て行ってくれと願うくらいに、いやな住人だったでしょうか。

わたしは料理担当だったから、言われるなら「キッチンをたくさん使ってくれてありがとう」? いいや、「もう少しきれいにキッチンを使ってよ」? わたしの予想は後者です。いつも油まみれにして、たっぷり汚してごめんなさいね。3くちのガスコンロと広い調理スペース。とても使いやすいキッチンだったから、つい気分が高まって、あれこれ作ってはあなたを汚してしまった。

夫は掃除担当だったから、きっといい言葉をもらえるでしょう。「いつもきれいにしてくれてありがとう」。うん、その言葉が似合うくらい、夫はあなたをきれいにしていたと思う。細かなところも見逃さずに、ゴシゴシ、ワシワシ、キュッキュと。ピカピカにしていたでしょう? わたしはたまに手伝うくらいだったけど、きれいなあなたの姿を人一倍喜んではいましたよ。

わたしたちのすべてをあなたは知っている。楽しく笑いあった日も、喧嘩をして別々の空間にツンと引きこもった日も、さめざめ泣いた日も。あなたの中でわたしたちは感情をあらわにして、それはそれはのびのびと暮らしました。

今までありがとうと、その言葉だけを送ってさよならはあまりにも薄情な気がするけれど、部屋とのお別れをそれしか知らないのでどうぞ勘弁してくださいね。せめてここから去る日は、あなたをもっともっとピカピカにしてみせるから。

あぁ、寂しいですね。離れたくないなぁと思います。ここにわたしたちが暮らしていたことは、誰にもわからないようになってしまうから。次の出会いのためにね。

気持ちよく暮らしてくれる方との縁が、あなたにありますように。気持ちよくというのは、あなたにとっても、住人にとっても。空っぽのままはもっと寂しいから、新しい個性があふれる部屋に生まれ変わることを願っています。

とはいえまだ数週間、ここでの暮らしは続きます。どうか最後までよろしくね。残りわずかではありますが、笑ったり泣いたり怒ったり、まだまだすると思いますので。